前回の記事では、プロジェクトの成功率を大きく左右する『課題解決力』について解説しました。
プロジェクトは『何かしらの課題を解決する取り組み』のため、課題解決の巧拙がプロマネのレベルに大きく影響します。
上記の記事では、課題解決の『型』となる①目標の設定、②現状の把握、③打ち手の決定の3点につき、それぞれの『質』を高める手法を説明しました。
一方で、その『型』を上手く進めるためには、必要な『基礎スキル』があります。それが『思考のスキル=考えるスキル』で、『課題解決力』を支える土台になります。
この記事では、その『考えるスキル』について解説していきます。
思考は頭の中で行われるため、『非常に見えにくい=学びにくい』スキルですが、今日からの仕事で実践できるよう、具体例やワークも入れながら超詳細に説明していきます!
プロジェクトにおける『考える』とは?
まず初めに、プロジェクトにおける『考える』について整理しておきましょう。
プロジェクトを『課題を解決する取り組み』と定義すると、実はプロジェクトにおける『考える』は2つしかありません!
- 発散のための『考える』
- 収束のための『考える』
そうです、これは前回記事で解説した『ダブルダイヤモンド』のステップです。『課題発見』『打ち手決定』のどちらのステップでも上手く進めるためには『考えるスキル』を使いこなす必要があります!
そして『発散』『収束』のどちらにおいても、使う『考えるスキル』は3つだけ!
この3つさえマスターすれば、プロマネとしての『課題解決力』を大きく底上げすることができます。
- ロジカル思考 | 『タテ=MECE』と『ヨコ=因果関係』で構造的に整理する思考
- 論点思考 | そもそも『今、考えるべきことは?』『何が大事なのか?』と立ち止まって考える思考
- 仮説思考 | 『今ある情報』だけで最も妥当だと思える『結論を出す』思考
① 発散のための『ロジカル思考』
最初に『発散』のステップを見ていきましょう!発散で使うのは『ロジカル思考』です。
発散のステップのポイントは『抜け漏れなく洗い出す』ことで、ここで抜け漏れが発生すると、課題の発見も打ち手の決定も大きく外すリスクが高まります。
この発散のステップで『ロジカル思考』を活用するメリットは大きく3つあります。
- 発散の『抜け漏れ』に気づきやすくなる
- 直感的な『飛躍したアイデア』が出しやすくなる
- 『チームでの発散』が劇的にしやすくなる
まずは【1. の『抜け漏れ』に気づきやすくなる】を解説していきます。ここが最も価値のある『ロジカル思考』の使い方で、ポイントは2つです。
1つ目は『バカの壁』に気づきやすくなることです。自分が考えている部分の『外』があることに気づかず、『バカの壁』の向こう側を見落とすことが『抜け漏れ』を発生させる最大の要因です。
ロジカル思考を使い、『タテ・ヨコ』に考えを整理していくことで、同じレイヤー(階層)に『他の項目がないか?』を非常に考えやすくなるため、『バカの壁=抜け漏れ』に気づける可能性が格段に高まります!
2つ目は狭く考えることで深く考えられるようになることです。
逆説的に感じるかもしれないですが、意図的に『狭く、狭く考える』ことで、深くその課題や打ち手について考えられます。そして、意図的にある部分だけを『狭く』考えるには、ロジカル思考で『タテ・ヨコ』の全体を整理することは必須です。
全体像が見えているからこそ、ある部分にズームインして『狭く』考えにいくことが可能になります。
また、『狭く考えている=今考えている部分の「外」がある』と自覚することは『バカの壁』に気づくやすくなるという副次効果もあります!
下図を例にすると、あえて『売上』について狭く考えると決めることで、『売上』については深く考えられるし、売上の外に『コスト』という項目があることに気づきやすくなるということです。
『抜け漏れ』なく考えられることは、劇的に『課題解決』の精度を上げるので、ぜひ習得していただきたいです。
次に【2. の『飛躍したアイデア』が思いつきやすくなる】を説明していきます。
ロジカル思考と『飛躍・アイデア』は結びつきにくいところがあると思います。でも、ロジカル思考の本質は『直感の飛躍』にもあります。
まれに鋭い直感力があり、天才的なひらめきですごいアイデアを発見できる人物もいます。でも、ほとんどの人たちはそうではありません。
そんな一般的な人にとって『ロジカル思考』はアイデアで勝負する上で、希少な『武器』になります。
ロジカル思考で突き詰めて『タテ・ヨコ』を考え尽くし、その上で最後の最後に、絞り込んだ領域で『直感の飛躍』を使うことが、天才型のひらめき人材に勝っていくには絶対に必要なのです。
最後の最後は『直感の飛躍』はどうしても必要ですが、それでもギリギリまでロジカルに突き詰めることが、アイデアの精度を圧倒的に高めてくれます。
最後に【3. 『チームでの発散』がしやすくなる】を解説します。
皆さんも、チームで『アイデア出し』『ブレスト』をやったとき、色んな意見が出るものの全然まとまらない・議論が深まらない…という経験をしたことはないでしょうか?
プロマネ3大スキル ファシリテーション編で解説の通り、課題解決には『5階層』あり、『今、どこを議論しているかを明確にしておくこと』が、チームで発散のディスカッションする上で必須になります。
でないと、全く議論が噛み合わず、あっちこっち行ったり、全然アイデアが深まらなかったりという展開になります…
そこで活用できるのが『ロジカル思考』です。
常に『タテ・ヨコ』の全体像を意識して議論を進めることで、『議論している部分』からはみ出た『ズレた発言』にすぐ気づけますし、煮詰まったとき『タテ』に広げるか・『ヨコ』に深堀りするかを判断しながら議論を深められるようになります。
文章だけで説明されてもイメージが湧きにくいと思いますので、具体的なディスカッション例を見てみましょう。
『タテ・ヨコ』で全体像をイメージできていると、メンバーの意見を『タテ』に深堀りをしたり、『ヨコ』に広げたりといった会話ができ、チームでの議論を活性化しながら、抜け漏れなく・ズレなく整理できるようになります。
『ロジカルに発散する』スキルは、①課題解決での抜け漏れを防ぐとともに、②飛躍した直感的なアイデアを生みやすくし、③チームで精度高く議論できることにつながります!
ぜひ『ロジカル思考』を習得し、安定して質の高いアイデア出しや議論の整理ができるプロマネを目指してください!
② 収束のための『論点思考』
次に『収束』のステップを見ていきましょう!発散で使うのは『論点思考』です。
収束のステップのポイントは『外さずに選ぶ・絞る』ことで、ここがズレるとせっかく抜け漏れなく『発散』した意味がなくなり、課題も打ち手も『成果につながらない』ものになります。
時間・人員・お金が限られる中で、『ロジカル思考』で発散したものに1つずつ取り組む余裕はありません。そのため、プロジェクトで最大成果を出すためには『効くポイント』を見極め、そこにフォーカスしていくことが必須になります。
そこで価値を発揮するのが『何が大事なのか?1番効くポイントは?最大の分岐点はどこか?』を考える論点思考です。
ビジネスにおいて考えるべき2軸は以下です。常に『成果を最大化』する視点で判断を下していきます。
ちなみに私も大好きな名著『イシューからはじめよ』における『イシュー』は、この『論点』のことを言っています。
プロジェクトという『期限がある』取り組みで成果を出すためには、『論点思考』でフォーカスする力は絶対に必要です。
失敗できない中で決めることは中々怖いことですが、ぜひ皆さんにはトライを繰り返し、習得してほしいです!
発散 & 収束 & 実行に必須の『仮説思考』
最後に『発散』『収束』、そして『実行』のステップで価値を発揮する『仮説思考』について説明します。
『ロジカル思考』で全体像を洗い出して、『論点思考』で絞り込んでいく。この流れ、実際の業務ではこんなにきれいなステップにはならず、『行ったり来たり』しながら進んでいくのが実態です。
最初から全てを完璧に洗い出して整理することは現実的には不可能ですし、何より教科書的に整理することにこだわることは非常に『効率』が悪いです。
そこで重要になるのが『仮説思考』です。
完璧でなくても『妥当』なら進める考え方が、結果的に『効率的』で『スピーディ』な発散・収束のステップを実現します。
実際に何かの課題発見を考える際も、以下のような流れを繰り返すことが1番速く・精度が高いことが多いです。
- ざっと『全体像』を考える ※粗くても問題ない
- 全体像の中の『特定の部分』を考えると決める ※ここでは課題を生んでいる『要因』とする
- 要因を『タテ』にざっと洗い出す。但し完璧に網羅することにこだわらない
- 重要そうな要因が見つかったら、とりあえず『ヨコ』に深堀りしてみる
- 深堀りする中で実はそんなに重要な要因じゃなさそうだと気づいたらまた戻る
『仮説思考』を『ロジカル思考・論点思考』に組み合わせることで、『発散・収束』をより効果的に進めることができます。
そしてこの『仮説思考』、『実行』フェーズでさらに価値を発揮します!
『考える』フェーズ以上に、『実行』フェーズでは何をやるにも人・時間・お金が掛かります。そのため、網羅的に一から検証していたらいくらリソースがあっても足りません。
ここで必須になるのが『仮説思考』で、重要だと思われるポイントを仮でも決め、そこにグッとフォーカスして検証し、結果から学びを得て、次の仮説をより良いものにするというPDCAサイクルが絶対に求められます。
特にデジタル化・DX案件では『結果がデータで可視化できる』ことが多いため、このPDCAサイクルを回しやすいはずです。そしてこのデータドリブンにPDCAを回せることが『デジタル』の価値でもあるため、仮説思考でスピーディにPDCAを回していく姿勢はより求められます。
イケてる『デジタル x プロマネ』人材になるためには必須の思考法ですので、ぜひ身につけてもらえればと思います。
チームで働く上で大切な『ロジカル思考』
最後に追加で『ロジカル思考』を活用すべき点を解説します。
プロジェクト、特にデジタル化・DX案件では、『知識・理解レベルが異なる』社内外の複数プレーヤーが多く参加します。
そのときに全員が『共通理解』を持ってプロジェクトを推進していくときに重宝されるのが『ロジカル思考』です。
会議やメールなどお互いの理解を揃えるためのコミュニケーションで、齟齬を生まないために大事なのは①全体像と特定部分の紐づきと、②意思決定の背景・因果関係を明確にすることです。
『ロジカル思考』でタテ・ヨコを構造的に整理した上で、上記①②を意識してコミュニケーションすることは、チーム全体で理解レベルを揃えて、齟齬なくプロジェクトを進めるために必須となります。
3つの『思考法』、必ず読んでほしいオススメの3冊
本記事で詳細に『3つの思考法』について解説してきましたが、かなり抽象度も高く、難しい内容だったと思います。
3つの思考を包括的に説明したこともあり、1つひとつを十分に説明しきれていない部分もありましたので、考える達人を目指す皆さんには、以下の3冊を必ず読んで、さらに学習を進めていただきたいです!
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まとめ
今回は考えるスキル、『思考法』について詳細に説明しました。
巷に色々な『思考法』に関する書籍がありますが、本記事では、実際の業務の中で、どのタイミングでどんな思考法を使うとよいのかを中心に解説してきました。
『タテ・ヨコ』を広く考え、『直感での飛躍』も駆使してアイデアを深め、『重要度と緊急度』で選択肢を絞り込む。
このプロセスを高い水準で安定してできるようになると、『課題解決』の質は劇的に高まります!そして、そのプロセスを支えるのが『ロジカル思考』『論点思考』『仮説思考』の3つの思考法です。
プロジェクトは『課題を解決する取り組み』である以上、課題発見・打ち手決定のための『発散』『収束』プロセスは、プロジェクトの至るところで表れます。
そのとき『3つの思考法』を上手く使いこなし、高い水準で考え切れるかはプロジェクトの成否に大きな影響を与えます!
大事なのは『今、何の思考を使っているか?』を意識して考えることです!
『筋トレ』で使っている筋肉を意識することが大事なのと同様で、意識的に使うからこそ考えるスキルは養われます。
思考法は仕事での活用範囲もめちゃくちゃ広い、ものすごく価値あるスキルですので、ぜひ考える達人になって、デジタル化・DX案件を成功に導くプロマネになってほしいと思います!
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